プロダクトマネジメント責任者インタビュー

次世代に向けて社会をアップデートするリクルートが取り組むIT化

めまぐるしいスピードでIT化のトレンドが進む現在、リクルートはどのような世界観を発信しようとしているのか。ここでは、ライフスタイル領域プロダクトマネジメント室室長として日常消費領域において、販促支援や業務支援のプロダクト企画開発などを早期から担当したキャリアを持つ荻野理彦が、これからの「リクルート×IT」について語る。

プロフィール & キャリアパス

Michihiko Ogino
荻野 理彦
キャリアパス
  • 2007年 4月、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。人事で採用や人材開発等の業務を担当。
  • 2013年 4月、ネットビジネス推進室 プロダクトマネジメント2グループ『ホットペッパーグルメ』プロデューサー。『ホットペッパーグルメ』のネットサービスの商品サービス開発を担当。
  • 2014年 4月、ネットビジネス本部 プロダクトマネジメント2グループ グループマネジャー。
  • 2017年 4月、ネットビジネス本部 飲食事業ユニット ユニット長 『ホットペッパーグルメ』プロデューサー。
  • 2020年 4月、株式会社リクルートライフスタイル 執行役員。株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 本部長。
  • 2020年 10月、株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ビューティープロダクトマネジメントユニット ユニット長。

コロナ禍で見えてきた「非合理」の変化

昨年から続く新型コロナウィルスの影響により、世の中の価値観が一変し、ライフスタイル面でも大きな変化が生まれています。このような現状について、どのようなことをお考えでしょうか。

日常生活における小さな意思決定から、就職や結婚、自宅の購入といったいわゆる「人生の大事な決断」まで、リクルートのプロダクトが関わる領域は非常に多岐にわたります。どの領域においても共通しているのは、やはり現在、色々なことを我慢しなければならない状況にあるということです。

その中でも特に影響を受けているのは、日常消費の領域です。「旅行に行けない」「外食を控えなければいけない」ということになると当然売上的にダメージが大きくなりますし、そもそもコロナ禍で消費者のマインドも冷え込んでいるため、市場が縮小してしまっている印象も否めません。

ただ、このような状況だからこそ、今までできなかったことを一気に改善しようとする流れも存在します。例えば弊社でもリモートワークになったことで、それぞれがリモートと出社を組み合わせながら業務を行うことができています。むしろ、営業の現場では、「リモートだとより短い時間で多くのお客様のフォローができるため、仕事がしやすくなった面もある」という声もありました。

このように、これまで「本当はこうすればいいのに」と思っていた非合理的なことが、コロナ禍の中で大きく変化している。その点を考えると、逆に組織やオペレーションを変革させるチャンスでもあると思っています。

そもそもこれまでリクルートでは、カスタマーやクライアントが抱えている不満、不便、不安といった「不」をいかに解決し、便利にするのかをミッションに、さまざまな領域で課題解決を進めてきました。

現在のコロナ禍では、カスタマーやクライアントがさまざまな変化に適応していかないといけませんが、リクルートはITを活用しながら、その支援をしていく必要があると思っています。

蓄積された情報を、
より良い体験につなげる

IT化のポイントとなるのは、具体的にどのような点だと考えますか。

ポイントは2つあります。ひとつはプロセスの省力化。お店に行かなくても物が買える、電話をしなくても予約ができる、店員を呼ばなくても注文できるなどといった、いわば一次的価値の創出になります。もうひとつは、得られるデータをもとに改善を重ね、さらなる価値提供が可能になるということです。デジタルに置き換えることでインプットとアウトプット(結果)がデータとして残り、それが有機的につながることで、学習による改善を行うことができます。

最近DXという文脈で後者のことがよく話されますが、私たちは毎日の生活で、さまざまな活動を行っていますよね。その中には、デジタルな記録として情報が蓄積されていないものがまだたくさん存在しています。例えば飲食店の店長さんが「来週の金曜日に席を予約できますか」と聞かれ、「大丈夫ですよ」と答えて予約のメモを取るとします。その一方、同じような予約の情報をオンラインで受け取ったとします。メモの場合だと、お客様が予約日に来店された後そのメモが捨てられてしまうと、情報はこの世から消えてしまいます。

しかし、オンラインの予約の場合は情報を蓄積できる。つまりIT化により、世の中に残らないはずだった情報を、蓄積できる状態に変えることができるようになった。このような情報の蓄積ができるようになると、それまで感覚的に行ってきた行為や行動を可視化し、その上での必要な対策や改善がしやすくなる。その結果、お客様のより良い体験につなげていくことが可能になります。

テクノロジーによって本当の意味で世界が変わるとき

データによるプロダクトの向上はよく言われていますよね。その中でもリクルートが目指すものはなんなのでしょうか。

おっしゃるとおり、いまお伝えした価値はよく話題となる内容です。ただこのようなIT化は、中小規模の店舗だと手を伸ばしにくい現状があり、まだ社会に浸透しきっていません。そもそもIT化はすごく複雑で大変なもので、全ての業務プロセスを整理しなくてはならないし、簡単に置き換えにくいイレギュラーな業務もあります。そのように多大なコストと労力がかかるとなると、事業や組織の規模が小さくなればなるほど導入ハードルが高くなってしまう。リクルートとしてはそういう状況の方々も含め、私たちが提供したプロダクトを利用することで、IT化の価値を享受できる状態を目指しています。

例えば、美容業界のヘアサロンでは数年前まで電話やホームページ、『ホットペッパー』などさまざまな販路から予約を受け付けていて、それらの情報をすべて紙の上で管理していました。そこに対してリクルートはネット予約と電話予約を一元管理できる『サロンボード』というオンライン台帳システムを用意しました。先ほどでいうプロセスの省力化、一次的価値の創出ですね。ちなみにサービス開始初日の予約件数は18件だったのですが、地道な商品改善や営業社員のクライアント伴走などを重ねていき、現在では年間1億件まで予約件数が拡大するなど、文字通りクライアントとともにネット予約という新しい文化を切り拓いてきました。現在『サロンボード』は機能の追加を重ね、レジ作業や売り上げ分析、顧客管理、求人情報管理といったさまざまな業務も支援できるようになっています。それにより生まれた時間でサロンの方は本業により集中できるようになったり、データを使用した業務改善の実現も可能になりました。このようにリクルートでは、クライアントに一からシステムの開発などを行わなくても、私たちの仕組みやツールを利用していただきながら、IT化やデジタル化の価値を享受できる環境を整えていっています。

テクノロジーを使って世の中に変化を起こす際、ITに明るいアーリーアダプターや一部の店舗だけが変わっても、なかなか社会全体でそれが当たり前にはなりません。だからこそ、できるだけ多くのクライアントに利用いただくためにも、大きなコストをかけずともわれわれのプロダクトを利用いただくことで、本質的なことに集中できるとか、また質の高い接客体験ができるなど、そういうことを実現できる世界を目指していきたいと思います。そのためにはプロダクトを作るだけではなく、多くの人に使い続けてもらうようにしていく必要があります。

データから生まれた新たな価値が、
中小店舗を支える

実際に行ったIT化の取り組みには、他にはどのようなものがあるのでしょうか。

例えば、飲食店向けオーダーエントリーシステムの『Airレジ ハンディ』です。これは、飲食店で食事を注文する際によく目にするオーダーを入力するシステムのこと。一般的なオーダーエントリーシステムというのは、実は非常にコストが高く、中小店舗では導入しにくいという課題がありました。そこで、リクルートはスマホでも利用できるシステムを開発しました。

この『Airレジ ハンディ』では注文を受けてから料理を提供するまでの所要時間などの情報を得ることができます。この情報をもとにしてデータサイエンティストが構築したロジックから、「いつまでに料理を提供したらよいか」と「それぞれの料理にどれくらいの時間がかかるのか」を自動的に割り出し、調理着手すべき時間になったら店員さんが見るディスプレイにアラートされるようになっています。これまで経験や勘をもとに調理と提供のタイミングを決めていたものが、過去の実績データをもとに適切なタイミングを判断できるようになりました。お客様から見ても、どのスタッフであってもベテランスタッフと同等のサービスを提供してくれるわけです。

また、『じゃらん』では宿泊施設の値付けと販売制限をサポートする『レベニューアシスタント』というサービスを開発しました。そもそも宿泊施設の業界では、宿泊の価格設定を個人の勘や経験に頼る傾向があり、その日の適正価格を算出するのが難しい状況でした。一方リクルートには、『じゃらん』で長年蓄積した宿泊データがあります。そこから得られる情報をデータサイエンティストが分析すれば、この課題を解決できるだけでなく、工数削減と収益最大化も実現できるのではないかと考えました。その結果、煩雑で専門知識が必要だったレベニューマネジメント業務が誰にでも簡単に行えるようになり、従業員の労働負荷を下げつつ、宿泊施設の収益を最大化できるようになりました。

この案件はリクルートのデータサイエンティストやエンジニア、プロダクトマネジャーなどがさまざまな宿泊施設へ直接赴き、泊まり込みで実際の業務を観察する中で、どのようなプロダクトであれば使いやすいか、試行錯誤しながら磨き込んでいきました。このようにきちんと業務に組み込んで使ってもらえるよう徹底した改善を行いながら、顧客接点の中でみつけた課題をテクノロジーで解決していくのがリクルートの特徴です。

テクノロジーを価値に転換する上で求められるスキルとは?

技術ドリブンでプロダクトをつくるのではなく、クライアントの課題からプロダクトづくりをしているのが印象的です。

テクノロジーというのは、目的が変わると姿も変わるものです。高度な技術を扱えることも当然重要なんですが、それだけでなく課題を価値に転換しようとする能力、つまり課題設定能力というのも非常に大事な要素になっていきます。

その際に、例えば先ほどの『Airレジ ハンディ』も、「料理の提供遅れをなくしたい」という課題設定ができて、そうしたときにこの情報を使ったら実現できるのではという仮説を立てるように、もっと良くできるのではないか、こうやったらいいのではないかというマインドを持っていることが重要です。

そもそも、私たちが取り組む課題の大半は、非常に骨の折れる仕事です。「何かと何かがぶつかっている状態をどうにかして解決する」というのが基本の状態ですから。しかも、人は非効率でも慣れているものを好む傾向が強いですから、そのような課題について議論を進めていると、「面倒だから、今のやり方でいい」という話になりかねません。しかし、それを「そうですね」と受け流してしまっていたら、何も生まれない。

目の前の課題を価値に転換させるには、「どうしたら解決できるのか」を突き詰めて考えることが必要です。それがやがて「これを実現したい」という強い意志となっていきます。そうやって課題を一つひとつ解決し、社会全体を変えていくのです。

リクルートが、
目指す世界

リクルートがこれから目指す世界はどういったものなのでしょうか。

リクルートとしては今後もテクノロジーの力で世の中をもっと便利にしていきます。

これまでは各事業領域にて個別に開拓してきたクライアントが多く、そこでの提供価値の磨き込みをおこなってきました。今後は、今年(2021年)の4月に国内事業会社の統合をしますが、それらの領域が組み合わさることでリクルートとしてトータルでお客様に価値提供をしていくことが重要になってくると思います。

例えば冒頭の話で言うと『サロンボード』を使っていただくことで解決できることの裏側に、実は人材の採用をやっていたり、売上管理をしていたりと色々な業務がある。これまではそのお手伝いを各事業会社ごとに取り組んでいましたが、分断していたからこそ最適化した提案がやりきれていない部分もあったと思っています。そういったところを統合という変化をきっかけに、横断的にプロダクトを結集し取り組んでいくことで、さらに深いお付き合いができるようになりますし、また規模でも数十万、数百万のクライアント、ひいてはマーケット全体に価値を提供する機会が増えていくのではないかと確信しています。そうする中で、うまくテクノロジーを使いながら冒頭で申し上げたような、IT化・デジタル化の価値をより多くの方が享受できる世界をつくっていきたいと考えています。