いかにして本質を掴み、お客様の困りごとに応えるか。 UXチームのメンター・メンティーが見据える、新たなプロダクトのかたち。

飲食店と消費者の体験をデザインし、プロダクトに落とし込んでいく――飲食支援領域で『Airレジ ハンディ』セルフオーダーを担当する川崎絢司、福岡健太郎の2人。

川崎はプロダクトマネジメントを担うリーダーとして、福岡は新人UXメンバーとして、それぞれ業務に向き合い、メンター/メンティーとしても良好な関係を築いてきた。思考や創発について会話を巡らせる2人には互いに深いリスペクトがある。同じゴールを見据えて走る中、新人社員はいかにして成功体験を積んだのか。そしてリーダーはいかにリードし、見守ってきたのか。2人の対話を通し、メンバーとプロダクトの成長ストーリーを追う。

PROFILE

福岡 健太郎

#メンティー #UXデザイン #体験デザイン #Airレジ
理系大学院中退後、2020年リクルートへ新卒入社。来店客が自分のスマホを使用しセルフでメニューを注文できるシステム『Airレジ ハンディ』セルフオーダーの開発チームにて、UX(体験デザイン)を担当。

川崎 絢司

#メンター #プロダクトマネジメント #Airレジ
アパレル、ゲーム開発ベンチャーを経験後リクルートへ中途入社。『Airレジ ハンディ』セルフオーダー開発チームのプロダクトマネジメントと福岡の教育担当を務める。

UXチームの中核として刺激し合いながら創発を進めてきた

川崎絢司(メンター)

チームの業務内容について教えてください。

川崎『Airレジ ハンディ』セルフオーダーを担当するチームです。メンバーは20名弱で、UXチーム、開発、テストを行うQA、データ分析という構成になります。僕たちのミッションは「飲食体験を、もっとストレスフリーに、もっと楽しいものにする」こと。そのために、「人がやらなくてもいい業務」を機械に置き換え、現場が「人がやる価値がある業務」に注力できるようにする。飲食店における、来店客・スタッフ間のコミュニケーションの再構築を目指すものです。

福岡サービスについて簡単に説明すると、『Airレジ ハンディ』セルフオーダーとは、飲食店が用意したQRコードをお客様が読み取り、スマホから注文が行えるようにするサービスです。お客様側は自分の好きなタイミングで注文できますし、店舗側は注文・調理・配膳を一括で管理できるのがメリットです。

チームにおいて、お二人はどのような役割を担っているのでしょうか。リクルートに入社した動機と合わせてお伺いできれば。

川崎僕はチームのプロダクトマネジメントを担当しています。リクルートの飲食領域というと『ホットペッパーグルメ』という印象が強いですよね。飲食業務の支援でも、0円でカンタンに使えるPOSレジアプリの『Airレジ』、集客と接客に効く予約台帳アプリ『レストランボード』といった大きなプロダクトがあります。しかし、そういった大きな既存プロダクトというより、自分が手掛けて本当に納得したものを広めてみたいと思っていました。

僕は「自分の作ったサービスで身の回りの人の日常生活が便利になる。そういうサービスを社会実装したい」という思いでリクルートに入社しました。自分が作ったサービスを、家族や友人が「このサービスすごく便利だね!」と使ってくれる。そんな瞬間にやりがいを感じます。企業に届けるBtoBサービスであっても、B(店舗)の業務を改善した先にC(お客様)の体験がどう変わるかを常に意識し、サービスを作りたいと考えています。

福岡はUXチームの体験デザインを担当。UXチームは体験デザインとビジュアルデザイナーのパートがありますが、これは機会を見つける「ディスカバリー」、見つけた機会を実装する「デリバリー」の役割を担うものです。UXの本質は課題解決であり、カスタマーが何をしたくて何ができないのかをまずは定義しなければなりません。福岡が担当する体験デザインは現場の一次情報を集めて整理し、「何をつくるのかを明確にする」役割なんです。

福岡健太郎(メンティー)

福岡僕は大学院で有機ELなど新素材の研究をしていましたが、中退してリクルートに入社しました。理系の研究と現在の業務は大きな隔たりがあるように思われるかもしれませんが、自分の中ではつながりがあると思っていて。研究とビジネスは「仮説を立てて」「検証して」「アウトプットを出す」というプロセスで共通しています。

知識を発見して新しい仮説につなげ、それをカスタマーの行動変容につなげていく。そこで得た知見をもとに、また新たな仮説を立ていく。研究と同じプロセスを踏める事業会社から社会に貢献していきたいという思いがありました。リクルートでは「体験変容」のテーマを突き詰めたいと志し、UXチームに配属されました。

メンター・メンティーという関係で、チームではどのような接点があるのでしょうか。

福岡川崎さんはチームに加わった当初から、ツールの使い方などを何でも気軽に相談できる存在でした。そして何より、ワークの推進を適切にサポートしてくれるメンターです。業務上のレビューを通し、きちんと論点を整理していただけています。「よもやま」と呼ばれるアジェンダを特に決めずに話す会議を週次で行っており、そこではネクストアクションについての示唆もあります。また、「心理的な負担は大丈夫?」といったメンタルヘルスケアも配慮していただいています。

川崎福岡が参加した当初はプロダクトの正式販売開始前ということもあり、チームはまだ小規模でしたね。現在は案件のインプットとレビュー、案件整理のタイミングでコメントを送るといったかたちで業務上の接点があります。リモート業務では雑談が少なくなったり、クライアント訪問の機会は少なくなったりと、懸念もありますが、チームの協調にあたって難は感じていません。

福岡も言及しましたが、僕も「よもやま」をすごく大事にしています。ライトに、役職の上下を問わずセットできる魅力がありますからね。メンティーの様子を聞くだけではなく、メンバーの業務を細かくケアするとチーム全体の課題が見えてくることもあります。

福岡さんは入社後、メンターであり身近な先輩でもある川崎さんにどのような印象を受けましたか?

福岡細部まで言語化し、どんな背景、考え方でその結論に至ったのかを一貫性を持って提示してくれる方だな、と。リーダーの透明性はチームにおける働きやすさにつながりますし、メンターとしての鋭い指摘は自分を成長させてくれます。たとえば、ジョイン当初、業務の話をしていて「~が課題だと思うんです」と何気なく言った時、川崎さんから「それって誰の課題で、いつ発生するものなの?」と問われたことがありました。課題を定義せず、曖昧なままにしていないか? 思わずハッとさせられた瞬間です。

僕だけではなくチームメンバーが自律的に動いていけるのは、川崎さんが「課題が何か」をつかむための判断基準を統一し、クリアにしてくれているからです。デザインが得意だったり、定義が得意だったりとチームメンバーも多様性に富んでいます。川崎さんはメンバーの特性、持ち味を生かしてくれるリーダーです。進め方に個性が出ていても許容し、結論の出し方にも幅を持たせてくれますね。

では、川崎さんからみた福岡さんの印象は。

川崎自分の頭で考えて動ける、優秀な新人だ。これが第一印象ですね。「わからないことはクリアにしてから次の日を迎えてね」と「よもやま」で伝えたら、彼はわかったこと、わからないことを社内チャット上の自分のタイムラインにまとめてつぶやいていたりしていました。「なぜそう考えるんですか?」と言ったように、考え方の背景、物の見方をたずねてくることも多いんです。僕はプロダクトのリーダーとして、抽象的な情報の整理、概念の整理をすることが多いので、そこに関わってくれるメンバーが参画してきてくれたことを頼もしく感じています。

「分かりません」と言い出しにくく、身動きが取れなくなってしまう。これは新人によくあることです。特に、コロナ禍では雑談、何気ないコミュニケーションが減ってしまっており、新人が主体的に動き、学びを深めてもらうことの難しさを感じています。ですから、福岡がチームに参加した時は「論が先行する頭でっかちの向き合い方ではなく、地に足のついた仕事の進め方を身に着けてほしい」と伝えていました。

机上から街に出よ。メンターの示唆からソリューションが見えた

福岡さんがメンバーとして成長する中、『Airレジ ハンディ』セルフオーダーの開発にはどんな課題があり、どのように解決していったのでしょうか。

川崎『Airレジ ハンディ』セルフオーダーは、お客様の来店ごとにQRコードを発行する仕組みを考えていました。ところが、実証実験を進めていくと、QRコードを発行していただけていない、つまりセルフオーダーについて案内がない店舗も少なからず出てきました。それは一体なぜか? まずは原因を特定する必要がありました。

福岡僕たちは「QRコードの発行・配布がホールスタッフの手間になっているのではないか」という仮説を立てました。この仮説を検証すべく、協力してもらった居酒屋に足を運んで観察してみたんです。すると、スタッフがQRコードの配布に躊躇している様子がどこか気になりました。

週3~4回ぐらい通ったと思います。その際にとても役立ったのが、川崎さん含めチームの先輩のアドバイスです。「繁忙時間帯を避けて開店直後のヒアリング」「おすすめ商品を聞いてから、さりげなくプロダクトの使い勝手に触れる」など、ヒアリング時に意識すべき細かいナレッジがすごく役立たちました。仲良くなってから「なぜQRコードを配るのをためらうのか?」と尋ねてみたところ、現場のスタッフに「罪悪感」があることがわかったんです。

注文取りはホールスタッフの業務。それをお客さんに押し付けていいのか?という思いが罪悪感につながっていたんです。その解決策として考えたのが「テーブル固定QRコード」。印刷したQRコードをテーブルに設置するというソリューションです。

川崎福岡から相談され、そのソリューションも仮説としては理解できました。だけど、お客さんが自ら使ってくれるのかは不確実。実装コストも高くリスクがあるため、即断できるかは難しい。そこで店舗での実証実験を提案したのです。

福岡店舗に協力を得て実験したところ、想定以上の利用率向上が見られました。この結果が大きな手応えになりました。

福岡さんが視察を重ねることで導いた仮説が、結果に結びついたのですね。

川崎アポを取っての面談や電話だと、求めていた情報は引き出せなかったでしょうし、実証実験に協力してもらえたかも微妙です。福岡の自律的な動きがなければ、この数字はつかめなかったでしょう。事前のヒアリングでも店に足を運び、知らない人に話しかけて聞き出しています。「足繁く通ったら」などと助言はしていないし、仲良くなり方もアドバイスした記憶はないけど……(笑)。自分なりに考えて工夫して取り組んでくれたからこその成果だと思います。

ただ、現場を見に行ったほうがいいとは伝えていました。それは「人の言葉や考えではなく、行動を見よ」ということです。福岡は現場に足を運んで観察を重ね、スタッフが「躊躇する」という行動からブレイクスルーを見出しました。

福岡色眼鏡をかけずに、行動を見ること。そして、自分の目で確かめること。川崎さんは、このアドバイスを通して「先入観を持たず、ファクトや行動をソリューションに落とし込んでいくこと」の重要性を示唆してくれました。この学びは今後の取り組みにも生かしていきたいですね。

福岡さんの仕事の進め方に変革が起こった。個人としての成長にもつながったのでしょうか。

福岡もう一つ、大きな気づきがありました。ソリューションとして検討したテーブル固定QRコードですが、これは店舗側の協力がなければ検証できません。卓上にQRコードがあったら、来店したお客様はどう思うだろうか。僕が店長だったら検証に協力するだろうか……。作り込んでから店舗に協力を仰ぐべきかと迷っていたところ、川崎さんから「ハリボテでもいいから、今あるもので検証してみたら」というアドバイスをいただいたんです。

川崎UXにおいて重要なのは、プロダクトがいかに早く「学習」するかということ。とにかくトライの回数を重ねることが成長スピードに直結します。だから、最初のヒアリングで美麗なパワーポイントを時間と手間をかけて作り上げることがそぐわない場合もあります。紙にペンで書いて説明した方がすぐ相手に説明でき、問題をスピーディーに突き止められるでしょう。それが福岡に「ハリボテでもいい」と言った真意です。

福岡戸惑いはありましたが、川崎さんに背中を押されてトライしてみたところ、店舗側も快く協力してくださいました。たびたび足を運んでいたので店長とも良好な関係があり、店舗の特性も把握していました。それで依頼しやすかったというのもありますが、快諾いただけたのは驚きでしたね。

川崎福岡は店舗に足を運んで店長やスタッフとコミュニケーションを取り、普通の進め方では得られない現場の一次情報を入手しました。これが課題解決につながったんです。キーワードは「関係性」と「共感」です。機能やメリットを十分に説明し、クライアントが期待を寄せてくれている。そんな「関係性」があり、「良いプロダクトを作りたい」という思いに「共感」してもらえたら、クライアントと一緒にブラッシュアップできるはずです。関係性を築き共感を得るために重要なのは、「誰が何に困っているのか」をシャープに突き止めること。そのポイントを鋭く捉えたら、チームメンバーや営業まで巻き込んでいけます。

福岡確かに、一連のやり取りを経て「関係性」と「共感」の重要性を体感でき、仕事の進め方も変わりました。川崎さん自身も、リクルートに入社して先輩の仕事に驚き、インパクトを感じたと聞いたことがありますが……。

リクルートの風土で現場、現場主義が養われていく

川崎さんがリクルートに入って感じた衝撃について、ぜひ教えてください。

川崎入社直後、新規商品開発に携わってクライアントを訪問したときのことです。前職のベンチャーでは「お客様に行くならお土産がなければ」と言われていました。何かしら具体的な提案、企画がなければ訪問してはいけない、ということです。ところが、リクルートでは、企画など持たずに訪問し、困りごとを聞き出す先輩の姿を目の当たりにしました。そのヒアリングをもとに、次のアポでは紙1枚だけ、いわゆる「ペライチ」の資料を持って提案するのです。一人で企画を考え、頭の中だけで練っていては絵に描いた餅で終わってしまいがちです。コミュニケーションを重ねつつ、クライアントと一緒に企画を作っていく醍醐味をリクルートで学びました。

福岡机上の検討にとどまらず、クライアントと一緒に企画を進めていく。リクルートならではの醍醐味を僕も体感しています。メンターの川崎さんから得た学びを後進にも伝えていきたいですね。

川崎地に足のついた説明は、チーム内のコミュニケーションでも重要です。福岡が働くUXチームは、開発者などの他メンバーに「なぜこれを作るのか?」を丁寧に説明することが求められます。そこで「この機能はなぜ必要なのか」と聞かれたとき、「クライアントが要るというから」ではメンバーを巻き込めない。クライアントごとの業務のポイントをつかんでいて、「だから、この機能が必要だ」という説明がなければ。

福岡背景をつかむことについて、川崎さんは「机上の検討だけでは背景をつかめない。疑問を持って情報を集めなきゃ」と強調しますよね。基本にあるのは、先入観を持たず、レスポンスを素直に受けとめて改善行動に向き合う姿勢です。先入観を持たない川崎さんのスタンスに刺激を受け、僕も地に足のついた提案ができてきているように思います。

川崎机上の検討だけだとユーザーが見えなくなり、「誰のための課題なのか」というポイントがふんわりしてしまいがちです。UXチームの役割は課題解決ですから、「誰のどんな困りごとなのか」を高い解像度で見通さなければ、チームの取り組みが無駄になってしまうこともあります。一次情報を積み上げて自分の考えを作っていける福岡の追求力が、この成功をもたらしたのではないでしょうか。

最後に『Airレジ ハンディ』セルフオーダーのチーム、そしてお二人について、今後の進路、イメージをお聞かせください。

川崎「注文」に特化して開発を進めてきましたが、現在は次のフェーズに入っています。プロダクトのユースケース、シーンが広がるため、今後は仮説検証、学習のスピードアップがチームの課題になります。UXチームも、より戦略的なレイヤーで考え、展開できる集団への進化が求められるでしょう。上位戦略レイヤーを考えていける福岡には、牽引者としての役割を期待しています。

福岡 UXチームとして視座を高く持ち、期待に応えていきたいですね。個人の目標としては、より抽象的、不確実性が高い案件であっても、きちんと前に進めていける力を養っていきたいと考えています。積極的にトライし、正解を出していきたい。

川崎『Airレジ ハンディ』セルフオーダーの開発において、僕たちが通過したのはまだ最初のステップにすぎません。僕は「0から立ち上げる」チャレンジにやりがいを感じます。
これからプロダクトを進化させていく過程で、また新たな「0→1」を見つけ、チャレンジしていきたいと考えています。

※「Airレジ オーダー」は2022年2年に「Airレジ ハンディ」より名称変更いたしました。

日常の一コマ

施策をクライアント店舗で早速実験!

検討した打ち手の効果が出るか確信がもてず悩んでいたら「じゃあ試してみたら?」となり、実際に店舗で実験!実際にやってみるなんて発想は新鮮でしたが、やるとリアルな情報が得られました。(福岡 健太郎、川崎 絢司)