楽しく働くために努力する。“やりたいことドリブン”で仕事を創り出す、異能人材のワークスタイル——博報堂・加藤喬大、リクルート・蔦田慎史

キャリア選択の岐路に立つとき、“大企業 or スタートアップ”の二項対立論が、必ずといっていいほどに語られる。

「大企業は縦割り主義で、やらされ仕事ばかり。優秀な学生は、スタートアップがファーストキャリアに向いている」
「大企業は育成を含めた社内制度が充実しており、スタートアップとは桁違いのアセットもある。本当に優秀な学生ほど、大企業が最適なファーストキャリアになる」

しかしこれらの意見は、「正しいようで、正しくない」
なぜなら、大企業に所属しながらスタートアップライクに働く、つまり相反する両極端を同時に実現するワークスタイルが実在するからだ。

本インタビューでは、株式会社博報堂が発足した「HAKUHODO Blockchain Initiative」の一員として、ブロックチェーンの社会実装に注力している加藤喬大氏をお招きし、リクルートに在籍する蔦田慎史と「所属にとらわれずに自分らしく働く方法」について語ってもらった。

彼らのワークスタイルを紐解いていくと、大企業に所属しながら“スタートアップライクに働く”ためのマインドセットと、それらを引き出す企業の文化とスタンスが浮かび上がってきた。

PROFILE

加藤 喬大

株式会社 博報堂 ビジネス開発局

2014年に株式会社博報堂入社。2018年9月、社内でブロックチェーン技術の応用について議論・推進を行うHakuhodo Blockchain Initiative立ち上げに関わった後、現在はブロックチェーンの社会実装、スマートシティ領域の事業化に取り組んでいる。

蔦田 慎史

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 事業開発ユニット
株式会社ブログウォッチャー プロダクトマネジャー

高校時代に馬術に没頭し、卒業後はプロの馬術選手として活動。全日本4位に入賞し、世界一を目指す。
その過程で「経済」と「ビジネス」の仕組みに関心を持ち、学術的に経済を学ぶことを志し、渡米。UCLAとOSU入学。経済学とComputer Scienceのダブルメジャーで卒業。2017年に株式会社リクルートホールディングス入社後、株式会社ブログウォッチャーに出向。データサイエンティストから、プロダクト組織のリーダーを務める。
執筆・登壇実績:日経ビックデータ連載、Data Summitなど登壇。

僕たちは「やらされ仕事だけの毎日には、飽き飽きしてしまう」

まずは、お二人の業務内容についてお伺いさせてください。

蔦田 慎史(株式会社ブログウォッチャー プロファイルパスポート事業部 プロダクト開発本部 技術開発部 グループリーダー)

蔦田リクルートから出向する形で、電通とのジョイントベンチャーであるブログウォッチャーで働いています。

社長と営業部長と僕の3人で事業開発をすることがキャリアのスタートであり、現在は位置情報データを活用して飲食店の出店計画を立てたり、大学と共同研究を行ったり、民間や行政を問わずお仕事をしています。売上規模は15億円程度、私のグループは35人まで大きくなりました。

加藤 喬大(株式会社博報堂 HAKUHODO Blockchain Initiative トークンコミュニティープロデューサー)

加藤僕は博報堂の社員としてビジネス開発局に所属し、数あるクライアント様に対してマーケティングにとどまらない事業開発のサポートしながら、HAKUHODO Blockchain Initiative(以下HBI)の立ち上げに関わり、その中心メンバーとして活動しています。

お二人とも、「大企業に所属しながらスタートアップライクに働く」という、特異な働き方をされています。もともと現在のようなワークスタイルを見据えて、入社をされたのでしょうか?

蔦田いえ、全く想像していませんでした。海外の大学に通っていたこともあり、そもそもリクルートという会社すら知らなかったくらいです。リクルートは僕の知人の間でも、候補にすら挙がらない無名の会社でしたね。

入社のきっかけは、卒業旅行で訪れたサンフランシスコで、たまたま開催されていたキャリアフォーラムに足を運んだこと。リクルートの社員に「一緒に世界を変えよう」と声をかけられ、「良いノリしてるな」と入社を決めています。代表クラスの方が「世界を変える」と宣言することは往々にしてありますが、現場で働く社員にまでその熱意が伝播し、浸透していることはそう多くありません。「フィーリングが合う」と感じたことが、決め手になりました。

しかし配属は、ブログウォッチャーへの出向という、同期の中でも珍しいキャリアに。中学校を卒業後に日本を放浪したり、馬術で世界一を目指していたり、急に海外大学に進学したり…と奔放な人生を送ってきたため、当時の社長に面白がってもらえたことが配属された要因の一つだと思いますが、現在のワークスタイルはあくまで結果です。

加藤僕は蔦田さんとは逆で、自分の意志で現在のワークスタイルに至っていると思います。入社してから4年ほどは「マーケティング」を専門にしていたのですが、もっとビジネス全体を見られる仕事がしたいと思うようになり、自発的に仕事をつくりはじめたのです。

企業で働く以上、個人の意志だけで動くことはできません。「こんなことがやりたいです」と提案しても、「まずは、日常の業務に全力で取り組もう」の一言で片付けられてしまうことも少なくない。

だから休日に社外の方と交流しながら、自分の意志で仕事をつくって、事後報告していました。すると、もうどうしようもないじゃないですか。仕事があるので「もう任せるね」となる。既存の業務を100%の力で打ち返しながら、プラスアルファの働きかけをして、ポジションを勝ち得る。そうやって、スタートアップライクに働く独自のスタイルを確立してきました。

あくまで一般論ですが、「大企業は縦割り主義で、オペレーション業務も少なくない」といった声もあります。しかしお二人は、領域を限定せず、自分流のワークスタイルを確立することができている。お二人のように働くには、どのような意識を持つといいですか?

加藤自分流のワークスタイルを確立できるかどうかは、大企業やスタートアップといった企業規模に関わらないというのが、僕の持論です。もしかすると「大企業は安定しているけどやらされ仕事が多く、スタートアップは安定していないけど主体性を持って働ける」と思っている人がいるかもしれませんが、誤解だと思います。仕事の進め方は、個人の意志に依存します。

大切なことは、自分のやりたいことと、会社に求められることの交差点を探すこと。その交差点に居続けることができれば、「やりたいこと以外はやっていない」フロー状態をつくれます。

僕の場合、以前はオペレーション業務のなかに、どうやって自分らしさを生み出していくかを必死に考えていましたが、現在は「自分の仕事」と胸を張れる業務がほとんどです。

蔦田僕も加藤さんと全く同じで、自分流のワークスタイルを確立できるかどうかは、心がけ次第だと思っています。たとえば僕なら、意味を感じない仕事は辛いので、すぐにやめます。つまり、いつも全ての仕事が楽しい状態です。

リクルートは自由な社風なので、手を挙げれば機会が回ってきます。それを利用して「本社のあの部署から予算を引っ張ろう」とか「彼はブログウォッチャーと相性が良さそうだから、『一緒に働かない?』と声をかけてみよう」とか、日々そんなことを考えながら業務に従事しています。毎日の仕事が楽しくて仕方がないですね。

仮面を被る人生は、無難であっても、楽しくない

組織体にかかわらず、自分のワークスタイルを確立するには、「今いる場所を楽しくする」働きかけが大事であると。

蔦田そうですね。僕は人がパワーを発揮するための絶対条件は、「楽しいと感じている」ことだと思っています。楽しいと感じられることじゃなければ、継続もできないし、熱意を持って打ち込むこともできません。だから、究極的には楽しくなければやる意味がない。

でも、楽しみ続けることって簡単ではないですよね。大人になるにつれ、周囲の目が気になったり、雑音が入ってきたり、楽しくないことがどんどん増えてきます。

すると、楽しくないことに身を包んだ人が、負のパワーをばらまき始める。人は往往にして、そうしたよくない方向に引っ張られてしまうものです。そうしたパワーを遠ざける努力をしていないと、「楽しく生きる」ことはできません。

加藤その意見、本当によく分かります。大人でいる方が楽なこともありますよね。でも、仮面を被った人の表情と、そうでない人の表情って、まるで違うじゃないですか。言葉の信憑性や、思いの強さが全然違う。前者の言葉は、まるで「役割が話している」ように聞こえ、楽しそうではなく、人を惹きつけることはありません。

一方、合計4名のメンバーで構成されているHBIは、全員が仮面を被ることなく仕事に向かっています。ふとしたことがきっかけで仮面を被らないよう、お互いに守り合うこともしています。蔦田さんがおっしゃる、「努力しないと、楽しいことばかりの人生を生きられない」という話と全く同じですね。

HBIでは、プロジェクトを動かす際に、「年齢の10の位を取っ払おう」とよく話します。僕は28歳なので、8歳です。そうやって子どもでいるための工夫をすると、楽しいままで仕事ができる。

蔦田子どもか大人かを決めるのは、年齢ではなくマインドですよね。本当は「22歳で就職する」というルールなんて、どこにもない。大人になるタイミングは人それぞれ違うので、周囲に合わせず、自由に動き回ればいいと思うのです。

信念があれば、“自分に合うキャリア”に導かれる

これまでの経験を踏まえ、現在ファーストキャリアを決める年齢にあったとしたら、どのような企業を就職先に選びますか?

蔦田大前提として「ファーストキャリアとして入社する企業が、人生の中で最もいい企業である」確率はものすごく低い。だからこそ、事業のつくり方や、チームとして高めあっていく方法を学べるのであれば、最初に働く会社はどこでもいいと思っています。あとは、自分のノリに合うかどうか。大企業であっても、スタートアップであっても関係ないです。

ただその基準に照らし合わせれば、リクルートは絶対に選択肢に入ります。僕のように、「大人になりたくない」ノリの人が多く、年齢でマウンティングを取る「偉い人」がいないので。

加藤現在のようなスタイルで働けることが分かっていれば、もう一度博報堂を選ぶと思います。学生時代はいわゆる“就活偏差値”を意識していた節もありますが、それとは違い、社員の挑戦を最大限サポートしてくれる点で、博報堂です。リクルートもそうだと思いますが、大きな規模感で、僕のようなワークスタイルを評価してくれる企業はなかなかないと思うので。

蔦田僕らのワークスタイルを「許してくれる」のではなく、むしろ「評価してくれる」のはありがたいですよね。

大企業とスタートアップは、いわば「相反する」環境のようにも思えます。自分に合った環境に巡り合うために、やるべきことはありますか?

蔦田めんどくさいと感じることは避けられるよう、最小限の努力でクリアする工夫をする。その上で、好きなことに情熱を注げば、自分にとって良い環境に落ち着くと思うのです。自分が好きだと感じることを楽しそうにやっていれば、自然と人は集まってくる。そして、集まってきた人に学べば、成長していけるので。

僕はその典型的な例です。ブログウォッチャーの上司やクライアントの方々の仕事のスタイルや言葉によって、今が形成されているなと感じます。

そうした経験のなかでも、僕の人生の根幹になっている言葉があります。以前、プロ馬術選手として活動したころに、お客さんからいただいた「蔦田くん個人が、世界を変えるんだ」という一言です。

僕は高校を卒業後、プロの馬術選手として世界一を目指している時期がありました。しかし3年ほど活動したころ、馬術以外のことがやってみたくなったのです。もう少し大きくいうと「人の生活を変えるほど」のインパクトを与える仕事をしたくなっていました。

とは言うものの、自信もなく、グズグズしていたところ、あるお客さんが「世の中を変えるのは、いつだって個人。その事実を信じ抜ける人であれ」というメッセージをくださったのです。

大事なことは、どんな組織にいても「変化を起こすのは、いつだって自分なんだ」と、理解できていることだと思います。その言葉を信じて生きてきた結果、僕はそれをサポートしてくれるリクルートに巡り会うことができました。

「これでいい」より「これがいい」で選択する

お二人がこれまでのキャリアで得た、仕事の教訓や大切にされている言葉を教えてください。

加藤「大企業はやらされ仕事ばかり」と思っている学生もいるかと思いますが、実際に働いてみて、実態はそうではなかったと理解できました。逆に「ベンチャー企業やスタートアップは予算がない」といった声もありますが、彼らと関わることで、それも実際のところは事実ではないことも分かっています。つまり大抵の場合、組織の規模で何かが大きく変わることは、そこまでないのです。

僕は、やりたい仕事に没頭できる環境を自分でつくってきました。繰り返しになりますが、結局は心がけ次第。常にその意識を持っていただけたら、楽しい社会人生活を送ることができると思います。
蔦田学生の皆さんに伝えたいことは、一つだけです。「これでいい」じゃなくて、「これがいい」を大切に生きてください。