デザイン留学、フリーランスを経て、リクルートへ。デザイナー・小島清樹が、多様なインプットを追い求める理由

小島 清樹/株式会社リクルート Treatwell Designer

海外企業のM&Aを通じ、国内のみならず、グローバルでの成長を目指すリクルート。買収先には日本から経営人材が出向するケースはあるが、社員が出向するケースは稀。その中で、20代という若さで海を渡り、事業をリードするデザイナーがいる。——小島清樹だ。

小島は「あらゆる領域で経験値を積みたい」とリクルートに新卒入社。入社後はスタートアップライクな新規事業から、企業の大黒柱である既存事業まで、毛色の異なる事業を担当してきた。1年目から複数のプロジェクトを担当し、翌年は主要サービスのアートディレクターを歴任。その後海外子会社・Treatwellにて、マーケティングチームのデザイナー兼エンジニアとして勤務した。そして、2020年4月からは再び、リクルートへと活躍の場を移す。

多様な経験を求める小島は、なぜリクルートを選び、いかにして理想とするキャリアを実現してこれたのか。デザイナーを志した学生時代から現在までの経歴を紐解き、複数の領域を股にかけて活躍する術を探っていく。

PROFILE

小島 清樹

株式会社リクルート Treatwell Designer

慶應大学総合政策学部から九州大学大学院芸術工学府に進学後、オランダへ交換留学及び現地デザインエージェンシーに在籍。帰国後、学業と並行しながらフリーランスとして活動。卒業後にリクルートへ入社し、グラフィックデザイン、ブランディング、UX、UI、サービスデザインなどの領域で従事。入社3年目には「Airメイト」の立ち上げに参加し、現在は英国子会社のTreatwellに赴任中。共著に『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』。

「思考」と「つくる」が分断されてはいけない。ハイブリットなデザイナーを目指した理由

小島さんはもともと、デザインを専攻されていたわけではないとお聞きしています。デザインを本格的に学ばれた理由について、お伺いさせてください。

小島 清樹(株式会社リクルート Treatwell Designer )

小島僕が大学3年生の2011年当時、周囲で「デザイン思考」が流行っていたことが背景にあります。デザイン思考とは、デザインに求められる思考と手法を利用し、ビジネス課題を解決する考え方。ブームが起こった数年前から現在に至るまで重宝され続けています。

僕も同様に、デザイン思考に興味を持っていました。ただ、思考するだけでは不十分というのが、当時からの僕の考えです。

なぜなら、つくることができないと、思考を形にできないから。そこで僕は、「思考する」ことと「つくる」こと、どちらもできるデザイナーになろうと決意しました。それが、デザインを本格的に学び始めた理由です。

大学院に進学し、海外留学もされています。デザインを学ぶためでしょうか?

小島そうですね。恩師の指導の元、デザインにおける技術と思想を学び、それに磨きをかけるための選択でした。
オランダのアムステルダム応用科学大学に、「メディアラボアムステルダム」という産官学による共同経営組織があります。そこでは、世界中からバックグラウンドの異なる人材が集まり、クリエイティブ産業の底上げを目指す全20週のプログラムが開講されています。僕はそれに参加したくて、大学院進学後に留学したんです。

メディアラボには僕と同様にデザインを専攻している学生もいれば、エンジニアや、経営を学んでいる学生も在籍していました。彼らとともにプロジェクトを動かすなかで得た教訓は、社会人になった現在にも活かされています。

学生時代に得た教訓が、仕事に活きているんですね。具体的に、お伺いさせてください。

小島「目の前の人を喜ばせることが何より大切」という、僕の仕事における信念につながっています。

プロジェクトの中で、デザイナーである僕の役割は、手を動かしてアウトプットをつくること。つまり、メンバー全員の構想を形にする仕事です。実際にアウトプットを見ると、「いいね!」とテンションが上がるもの。メディアラボアムステルダムでは、僕の仕事を通じて、喜ぶ人の顔をたくさん見ることができました。

もともと、多くの人に幸せを届けるサービスをつくりたいと考えていたのですが、その光景を目にして「まずは周囲の人を幸せにすることが大事なのかもしれない」と感じました。いきなり目に見えない“多くの人”に想いを馳せても、反応が得られるわけではありません。であれば、まずはサービスをつくっている人が幸せを感じ、その幸せを伝播させていく方が、結果的に多くの人を幸せにできるのではないかと思ったのです。

リクルートを選んだ理由は「大企業とベンチャーの血を併せ持っている」から

就職する以前に、フリーランスとして活動されていたともお伺いしています。具体的に、どのような業務に従事されていたのでしょうか。

小島クライアントであるコンサルティング企業と制作会社を介し、主にスタートアップに対するブランディングの支援をおこなっていました。

学生時代に、既に“社会人”として働いた経験は、その後のキャリアに活かされていますか。

小島そのまま就職活動の軸になりました。僕はいつも「これまでの人生で体験できなかった、新しいことに挑戦したい」と考えているので、今度は自社サービスを持つ企業で「サービスを成長させる」経験しようと思ったんです。就職先は事業会社を選び、未経験領域に飛び込むことに決めました。

「事業会社のデザイナー」と一口に言っても、数多くの企業があります。リクルートを選んだのは、どのような理由からですか?

小島生活者のあらゆるライフイベント領域に関わる大規模な既存事業を持っていて、なおかつ未開拓領域にも新規事業が立ち上がるリクルートは、僕にとって最適な環境だったからです。

就職活動時、僕は「あらゆる領域で経験値を積む」というキャリア志向を持っていました。複数の領域に携わりたかったですし、コンシューマー向けと企業向け、スタートアップ的なサービスと成熟したサービス、それぞれを担当してみたいと思っていました。

スペシャリティを磨き、独自性を見出す。悩んだ過去を払拭した入社3年目の転機

入社後は、どのような事業に携わってこられたのでしょうか。

小島1年目は、求人サービス「fromA navi」のUI設計を主に担当しつつ、そのほか複数のプロジェクトにアサインされ、とにかくアウトプットを繰り返していましたね。研究組織「リクルートワークス研究所」のブランディングを担当したり、イベントのスペシャルページをデザインしたり、目まぐるしく働いていた記憶があります。

1年目から複数の案件を手がけられていたんですね!毛色の異なるプロジェクトを見ると、学びも多かったのではないでしょうか。

小島そうですね。願ったり叶ったりの状況でしたが、悩んだこともあります。リクルートには、1年目の終わりにその年の成果を発表する「新人成果発表大会」というイベントがあります。そこで目の当たりにしたのは、1つのサービスにフルコミットして成果を出す同期たちの姿。一方で、複数案件にリソースを分散させていた僕には、その実績はなかった。今でこそ、当時の経験が活きていると胸を張れますが、「これといった成果がない」と感じていたのも事実です。

同期と自分を比較し、「成果が出ていない」ように感じたのですね。その悩みや葛藤はどこかで払拭されたのでしょうか。

小島入社3年目に新規事業を立ち上げたことは、一つ転機になっています。同期入社の甲斐駿介に誘われた有志のメンバーで、AIを用いて経営をサポートするツール「Airメイト」を立ち上げました。

「Airメイト」は小島を含む4人で開発を開始。それぞれ別部署に所属するメンバーだった。

小島特に飲食領域への興味が強かったわけではありませんが、新しいことに挑戦する経験そのものに魅力を感じ、誘いに乗ったんです。当時のリクルートには少なかったデータドリブンのプロジェクトに「挑戦できる」と、心が躍ったことを覚えています。

ただ、あくまで有志のプロジェクト。本業をおろそかにするわけにはいかず、休日や退勤後にプロジェクトを進めていました。隠していたわけではないですが、会社で作業をしていたところ、当時の部長に「小島、『Airメイト』やってるんだって?」と声をかけられて冷やっとしたこともありましたね(笑)。

「Airメイト」の立ち上げに携わったことで、どのような発見があったのでしょうか。

小島「思考する人」と「つくる人」が分断されてはいけない、と強く感じました。リクルートに限らずですがプロダクト開発においては、ディレクターがプロダクトを「思考し」、デザイナーやエンジニアが「つくる」構図が一般的です。

とはいえ、ディレクターの構想を正確に再現するのは困難。アウトプット後の調整が必要になるので、必ずロスが生じます。さらに、そこで修正を重ねたものでも、市場からのフィードバックがなければ、優れたプロダクトにはなり得ません。

ですが「考える人」と「つくる人」が一緒であれば、時間を節約でき、いち早くユーザーに触れてもらって市場からのフィードバックを得る機会を増やせます。「Airメイト」はメンバー全員で思考し、全員でつくったので、非常にスピーディーに質の高いアウトプットを出すことができました。

本業を持ちながらで苦労しましたが、当事者となってサービスを開発したこと、そして新たな開発手法を会社に提示できたことは、僕にとって財産になっています。

「Airメイト」の立ち上げに携わった翌年は、欧州の美容オンライン予約サービスを提供する海外子会社・Treatwellに出向されています。どのような理由で、出向を決められたのでしょうか。

小島役員陣以外が買収先に出向するケースは稀なので驚きましたが、同時にワクワクしたんです。これまで、BtoBサービス、BtoCサービスの双方を経験し、既存事業にも、新規事業にも関わってきました。「次は何ができるか?」と考えたときに、海外は未開の領域だった。僕は「あらゆる領域で経験値を積みたい」と思っているので、迷わず出向を決めています。

現在はTreatwellで、どのような業務に従事されているのでしょうか。

小島BtoBマーケティングチームに所属し、デザイナー兼エンジニアとして働いています。

海外で働くにあたり、過去の経験は活かされていますか。

小島リクルートで複数の事業にアサインされた経験が活きています。海外はスペシャリティを武器に働くのが基本で、スペシャリストが優遇される世界です。僕はUXデザインに強みを持っていますが、同様にUXデザインを得意とする人材はたくさんいます。つまり、それ以上に個人の色を出さなければ、活躍することは難しい。

そこで僕は「UXのプランニングができ、マーケティングも理解できる。またエンジニアリングもできる」というポジショニングで独自の価値を発揮できていると感じますね。

これまでの経験が積み重なって、今のスタイルにたどり着いたんですね。

小島おっしゃる通りです。以前は複数の事業に顔を出すスタイルに悩んだこともありましたが、そうした経験が自分らしさを確立する鍵になったと思っています。

入社時に期待していたことではありましたが、文字通りさまざまな経験ができたのは、リクルートならではだったなと感じていますね。

思考の制限を取り払い、経験価値を広げてほしい

これまでの経験を踏まえ、これから社会人になる方に向け、何かアドバイスはありますか?

小島キャリアの早い段階で、メンターを見つけることをおすすめします。経験則に基づく教訓をインプットしてくれるからです。

たとえば僕は、年齢の近かった大学の先生にデザインの基礎を教えてもらいました。授業といった形式ではなく、「小島の興味があることを知るには、この本を読むといいよ」と、経験則からアドバイスをもらっていたんです。

おかげで、遠回りすることなくキャリアをつくれたと思っています。もちろん学ぶことだけでなく、遊ぶこともそう。思考の制限を取り払い、経験の範囲を広げてくれる大人に出会えるかは、キャリアを形成する上で非常に重要な観点だと思います。

人との出会いが、実りあるキャリア形成のヒントになるんですね。「デザイナーとして」意識するべきことはありますか?

小島多様なインプットをすることです。たとえば僕は、2年目に携わった自動車領域のサービス「カーセンサー」で学んだことが、3年目に担当した飲食領域のサービス「Airメイト」に活かさました。これはインプットが多かったからこそ、発揮できる価値だった。

自動車であれ、飲食であれ、領域は違えど、応用できるスキルがあります。もしデザイナーとしてキャリアをつくるのであれば、スペシャリティを磨きながら、多様なインプットが得られる環境を選ぶことをおすすめしますね。

最後に、小島さんが働く上で大切にしている価値観をお聞かせください。

小島仕事を通じて、ユーザーにも、同僚にも「WOW!」と感動してもらえるサプライズを生み出せるか?を大切にしています。たとえば、大事な同僚に「1週間後までよろしく」と提案を頼まれたときには翌日までに仕上げてみたり、「3パターン出して」と言われた企画を100パターンつくってみたり。

「Airメイト」のプロトタイプ第一弾も、実は徹夜をして、一晩で仕上げたんです。甲斐からインプットを受け、朝起きたらそれが形になっている——それを見て彼は喜んでくれましたし、その話が語り継がれています(笑)。無理をする必要はないですし、僕は楽しんでやっているのですが、そうしたエピソードがあったからこそ、今の自分を形成する仲間や機会と出会えたんだと思っています。