“データのリクルート”に向けた、改革の序章。リクルートの全社横断組織「データテクノロジー室」とは?——大石壮吾・李石映雪

昨今、イノベーションによる新たな価値創造が求められていることは自明である。しかしイノベーションの重要性について、「組織」の観点から語られることは少ない。

2018年、リクルートは全社横断組織である「データテクノロジー室」を立ち上げた。エンジニアやデータサイエンティストが全事業領域をまたいで業務に取り組むことで、事業拡大と個人の成長を同時に実現するスタイルを目指す。

本企画では、横断組織を立ち上げから牽引する執行役員・大石壮吾と、データサイエンティストとして現場の最前線を指揮する李石映雪にインタビューを実施。横断組織の立ち上げの経緯から、データをフル活用する“真のIT企業”化に向けた未来図、そして所属するメンバーが飛躍的な成長を遂げるための人材投資の全貌について、実例を踏まえて話を聞いた。

PROFILE

大石 壮吾

株式会社リクルートテクノロジーズ執行役員

2001年中途入社。以後エンジニアとして、ネットサービス、アドテクプロダクトの開発、新規事業開発などを経験。現在はリクルートテクノロジーズ 執行役員(データ担当)に加え、リクルートライフスタイル データエンジニアリングユニット ユニット長とリクルートコミュニケーションズ 専門役員(ICT担当)を兼務している。

李 石映雪

株式会社リクルート住まいカンパニー ネットビジネス統括本部 データソリューション推進部

2013年新卒入社。北京大学では情報工学を専攻。在学中、リクルートホールディングスが手がけるグローバル人材獲得プロジェクト『WORK IN JAPAN』を通じてリクルートに内定。現在はプログラミングやデータ解析の若きスペシャリストとして、不動産情報サイト『SUUMO』の開発・運営に携わる。

メンバーのスペシャリティを組織の成長に活かす、データ組織の大改革

各社のエンジニア・データサイエンティストが所属する全社横断組織「データテクノロジー室(以下、DT室)」立ち上げの経緯についてお伺いさせてください。

大石 壮吾(株式会社リクルートテクノロジーズ執行役員)

大石リクルートグループでは、テクノロジーカンパニーを目指すにあたり、各社各様の取り組みをしてきました。しかし、個々の取り組みが全社の成長に最適化されているかといえば、そうではない。事業フェーズによっては、所属企業とは異なるグループ企業のプロジェクトにアサインした方が、能力をフルに発揮できる可能性がありました。また、そうした人材配置を行うことで、事業が飛躍的に成長する可能性もあります。DT室は、その双方を実現する取り組みとして発足しました。

これまでも、年一度のペースで会社間を異動できる仕組みがあり、個人のスペシャリティを最大限発揮できるよう努めていましたが、そのペースでは不十分だと判断したんです。DT室の発足により、たとえばリクルート住まいカンパニーに所属するデータサイエンティストやデータエンジニアが、リクルートライフスタイルの事業をできるようになる。つまり、それぞれのスペシャリティ、キャリア志向に合わせ、データ関連業務に従事できるようになったんです。

グループ全体で「最適な人材配置」を行い、会社と個人、双方の成長を目指す取り組みなんですね。具体的に、どのようにして組織を立ち上げられたのでしょうか。

大石現在DT室には250人のデータ人材が在籍していますが、数年前までそれら全員が各社に散らばっており、現状を知ることも難しい状態でした。そこで、まずは各社のデータ組織と連携し、どのような人材が在籍しているのかを把握することから取り組みをスタートしています。

情報のつかみどころがないため、各データ組織の組織長に社員それぞれの業務状況やモチベーションを確認したり、現場をよく知る人事から、最適な人材配置の提案を受けたり、ボトムアップで情報収拾を行いました。

ただ、リクルートは一つひとつの会社の規模が大きく、抜本的な改革を行うには時間がかかります。かつ、それぞれには文化や歴史があり、とにかく丁寧なコミュニケーションを心がけていたために、構想から約2年がかりで、現在の状態に至りました。

組織改革をおこなうために、地道なコミュニケーションを積み重ねてこられたんですね。現在は組織が立ち上がり、具体的な取り組みが始まっているとお聞きしています。以前と比較し、すでに変化は出ているのでしょうか?

大石少しずつ効果が出始めています。メンバーのスペシャリティを最大限に活かす人材配置を常に考え続けることで、パフォーマンスがグッと向上する事例が出てきました。それによって、数億円規模の売上増加につながった事例も出ています。明確な成果が出ていることは、メンバーの待遇の向上にも寄与してきています。

より顕著になる「人に投資するリクルート」のスタイル

DT室ができたことで生まれた変化について、より現場で働く人としての声もお伺いさせてください。李さんは、ご自身のキャリアにどのような影響があったと感じますか?

李 石映雪(株式会社リクルート住まいカンパニー ネットビジネス統括本部 データソリューション推進部)

専門性の異なるプロフェッショナルと仕事をする機会が増えたことで、以前に増して能力が磨かれる環境になったと感じています。たとえば私の場合、レコメンドシステムの知見があるのですが、数理最適化に関しては私よりも専門性の高い人がいると思います。

しかし、事業を推進する上でその専門性が必要になることもある。そうした際に、最適化のプロを他社からアサインすることで、事業が劇的に速く進むことはもちろん、その人の仕事を間近で見られます。そうした経験からは、自分の専門性が広がっていく感覚がありますね。

大石李が言うように、複数の領域を経験できることは、個人の成長観点でとても重要だと思います。たとえば、データサイエンティストにはデータを分析するスキルはもちろん、事業ドメインの知識も求められる。複数の領域を股にかける経験は、技術者としてのキャリアの広がりにも大きな意味があると考えています。

従来であれば、経験を積むためには、転職も選択肢の一つだったと思います。しかしDT室ができたことで、転職をせずともそれが可能になりました。つまり、リクルートの中で、事業領域や専門性を自由にアレンジすることができるように変化したんです。

またリクルートの社風として、ドメインを変えることだけでなく、意志があれば専門性そのものを変えることすら推奨されている。スペシャリティを最大限発揮したり、拡張したり、組織を超えてさまざまな経験ができることは、DT室ひいてはリクルートの強みなのではないかと思います。

異動や兼務をする際は、どのようなフローで意思決定を行うのでしょうか。

大石メンバー自ら手を挙げてもらうこともあれば、役員や人事が提案することもあります。基本的に提案は柔軟におこないますが、個人の成長を第一に考えたいので、意思決定は慎重です。各社の責任者が集まる場があり、最終的には複数人の合意を経て決定されます。たとえ、それが「期間限定の兼務であったとしても」です。

兼務であっても、複数人の議論を経て決定されるんですね。とても時間と労力を割いているように感じます。

大石その人の人生がかかっていますから、安易な意思決定はできません。

そもそも僕がプレイヤーからマネジメントに役割を移したのは、若くて優秀なメンバーたちに活躍してもらう方が、成果が大きくなると思ったから。活躍と成長の場を提供することに10年以上コミットしていて、今回の取り組みは、その成果を発揮する機会でもあるんです。

インパクトの大きさにこだわるから、ハイレベルな成長環境になる

技術職の社員が、複数の領域や役割を兼務する例は、よくある話なのでしょうか?

大石ベンチャー企業であればよくある話だと思いますが、リクルートのような大企業では珍しいと思います。組織が機能的に整備されていて、それぞれの役割でパフォーマンスを発揮する人材を採用するのが通例です。

私の大学の同級生は海外の有名企業で勤務していますが、やはり縦割りの組織なので、高いポテンシャルを持つ個人に対して、会社としては相対的に重要度が高くない業務を任せてしまう現実があると聞いています。

その点リクルートは、膨大なユーザーデータを抱える大企業でありながら、大きな裁量権を与えてくれます。たとえば「やりたい!」と言えば、「どうして?」と聞かれ、合理的な答えとガバナンスの効いた仕組みの提案があれば、役職や年次に関わらず機会が回ってくる。「組織が人のために動く」こともあるくらいです。

たとえばレコメンド機能の開発を中心に担当しながらも、新規事業に興味を持ち、上司に無理を言って、新規事業の開発者として業務を兼務させてもらった経験があります。

「自由と責任はセットである」という話をよく耳にするように、裁量権がある分、求められる成果も高いのではないでしょうか。

大石おっしゃる通りです。ビジネスサイドからの要求レベルが高いほど、それに応えるには豊富な実務経験や高い専門性が必要。正直、実務で通用するスキルを身に着け高めていくことは地道であり困難も多いと思います。ただ、その困難を乗り越えた時の成果や個人の成長は大きい。これは一歩一歩足をすすめる登山のようなものです。そしてその機会は皆さんにある。

そうした経験を積むことで、会社全体としても成長できている。ハイレベルな成長を志向する方にとって、リクルートは非常に有意義な環境ではないかと思っています。

失敗に寛容であり、やり切らせてくれる環境なのも、魅力の一つだと思います。数千万円の損失を計上してしまっても、それが次につながる挑戦だったのであれば、評価が下がることもありません。私のように好奇心旺盛な人にとって、社会に与えるインパクトの大きい仕事に挑戦し続けられるのは、とてもありがたい環境だと感じますね。

“真のIT企業”へ向けた、組織改革へ

最後に、今後の展望についてお伺いさせてください。DT室の立ち上げを皮切りに、リクルートはどのような組織を目指していくのでしょうか。

大石“真のIT企業”への進化を目指していきます。リクルートは過去、紙からウェブへと変化を遂げた過去を持っていますが、「まだまだ本当の意味でのIT企業になりきれていない」と僕は考えています。

たとえばリクルートホールディングスの子会社であるIndeedは、エンジニアやデータサイエンティストが活躍することで事業拡大してきました。利益を生み出すコアコンピタンスがエンジニアリングにあった。

もちろん優秀なビジネスサイドがいることでその構造が成り立っているのですが、それでもテクノロジーが最大の強みです。

今後はリクルートも、テクノロジーの力で成長していくスタイルを、より強固にしていきたいと考えています。そのために、人材への投資は惜しみません。

そうした未来図へ向けて、先々はどのような展開を見据えているのでしょうか。

大石DT室としての取り組みに力を入れていくことはもちろん、およそ4万5千人の社員が安全かつ自由にデータを活用できるよう整備を進めていきたいです。

一部のエンジニアやデータサイエンティストだけがデータを活用するより、社員全員でデータを活用した方が「予測できない大きな変化」を起こせると考えています。

昨今、AIに代表される最先端のテクノロジーに注目が集まりがちですが、それよりもデータを安全に自由に活用できる環境をつくることがより重要だと思っています。自分自身が想像もつかない未来をつくるために、優秀な次の世代のために、着実に地盤を固めていきたいと思っています。

データという言葉が流行り始めたのも、ここ5〜6年のことだと思います。世の中を見渡してみても、ユーザーがお金を払ってでも使いたい機械学習やAI技術がベースとなっているプロダクトは、まだまだ少ない。

なので、いちユーザーの立場として、本当になくてはならないサービスをデータ領域からつくることにコミットしていきたいです。リクルートにはそれを生み出すポテンシャルがある。最先端技術の活用を含め、全社単位で挑戦し続けていきます。